• 木村 俊一
    きむら・しゅんいち 近場の中小型から離島の大物 まで、フィールドと魚のサイ ズに釣り方を合わせて狙うの がモットー。豊富な経験と実 績を基にした理論と実践は他 の追随を許さない。これまで 30年間で約1600尾のイシダイ を釣る。
    自己記録はクチジロ 84.5cm。
    兵庫県尼崎市でプロ ショップ木村商経営。
    石鱗金的 技会名誉会畏
    1971年、屋久島で釣ったクチジロ72cm。
    この年の夏に初イシダイを釣った木村は 屋久島通いを続け、置き年のイシダイ釣り スタイルを確立していく。
ハゼに始まりイシダイに終わる
「釣りはヘラに始まりへラに終わるというけど、僕の場合はハゼに始まりイシダイに終わるやな」
イシダイ釣りに人生を賭ける木村俊一に釣りの楽しさを教えてくれたのは、実は小さなハゼだった。
小学2年生のとき、母方の祖父に連れられて行っ た兵庫県武庫川河口。消し込まれたセルウキに等を立てるとブルブルとした手応え。初めて味わう魚の 引きにすっかり魅了された木村少年の武庫川通いが 始まった。しばらくして父親がコイ釣りに使ってい た横転リールを持って出かけたが、使い方が分からず四苦八苦。それでもリールという新たな道具を使 うことで楽しみが膨らんでいったという。

初めてのスピニングリールを買ったのは小学5年のとき。釣り熱は高まり武庫川河口のカレイや甲子園浜のキスを釣ってるうちに小学校を卒業。中学に入っても部活はせず、友人たちと明石や須磨へせっ せと通い、2年のときには投げ釣りクラブ「神戸愛釣会」に入会。成人会員に連れられ日本海の香住や余部、淡路島などに出かけることで釣果にも恵まれ、ますます釣りの深みへとはまっていくのだった。
18歳で竹竿を購入
イシダイ釣りとの出合いは18歳のとき。父親の釣友から譲り受けたグラスの名竿「NF16」に荒磯の王 者イシダイとの対戦を夢見るものの竿が重すぎて扱えない。そこで軽量のイシダイ竿を購入し出かけた のは和歌山県御坊の潮吹岩。強烈なバックラッシュ に見舞われまったく釣りにならなかったが、まだ見 ぬイシダイへの思いがどんどん膨らむ。

入学した大学で釣りクラブに入り、イシダイに憧れる木村を知った学釣連のメンバーが紹介してくれ た大阪旭区の「畑中釣具店」に出入りすることで、木村はイシダイ街道をばく進することになる。「店のお客さんが皆、東正や龍澤とか竹竿使うてるねん。店の親父さんに「竹竿やないとイシダイ釣れへんよ、竹竿買い」っていわれて1万6000円の龍澤を買うてん。18 歳のときやったなあ」。

大卒の初任給が3〜4万円のころ、イシダイを釣りたい一心で、何のためらいものなく高価な竹竿を購入した木村は、自動車免許を持つ一つ年上の先輩と和歌山の名だたる釣り場に通い続けるが連戦連敗。見るに見かねた畑中釣具店のご主人の「屋久島行ったら5尾は釣れる。頑張って屋久島行っといで」のアドバイスに屋久島へアタックするが惨敗。しかし、イシダイの女神は木村を見放さなかった。二度目の屋久島釣行、ヤビチで木村の愛竿が強烈に舞い込んだのだ。

「竿を起こしたとこまでは覚えてるけど、あとはどないしたんかまったく覚えてへん。気付いたら イシダイが横たわってた」。初イシダイ55cm。イシダイ釣りを始めて2年目、1971年夏の出来事だった。毎月のように屋久島に通った木村は、同年10月に72cm のクチジロを仕留める。こうしてエサを撤いて魚を寄せ、置き竿を舞い込ませるという屋久島のスタイ ルが木村のイシダイ釣りの基本となった。
よい竿は勝手に食い込む
イシダイ釣りの精鋭集団「日本釣魚研究会」に入会した木村の人生は、イシダイ釣りを軸に回り始めた。 寝ても覚めても思い浮かぶのは、あのとき食い込まなかったのはなぜか、どうすればイシダイは釣れるのかということばかり。釣行を重ねるに連れて「食い込みのよい竿」へのこだわりが増していく。

「牧田敏郎会長(故人)がこんなこというてん。アタリが出たときに触らなあかんような竿は竿やないって。手持ちにして送り込んだりせんでも、放っておいたらイシダイが勝手に食い込むのがええ竿やと。竹竿やったら何でもええのと違う。2本と同じものはない。イシダイがよう釣れる竿とそうでない竿があんねん。僕はこれまで20本ほど竹竿使ってきたけど、ほんまに気に入ったんは3、4本やなあ」。そんな木村のお気に入りの一本が、1978年5月13日に男女群島の立神で当時のクチジロの日本記録84.5cmを仕留めた「龍澤別謎」だ。

「70cmオーバーを含め、小さいの入れたらなんぼ釣ってるやろ(笑い)。でもな、道具はどんどん進化するもんやん。竿師も経験積んでくるわけやから、それは竹竿も一緒。そやから、この竿も今は使うことあらへん。記念に置いてあるだけ」。
カーボンで理想の調子を
竹竿を愛用してきた木村が、自らの経験に基づいた理想の食い込み調子をカーボン素材で作りたいと思ったのが5年前。実現のチャンスを得て完成したのが「石鯛キング」シリーズだ。「カーボンの含有率を変えたりすることで、ここの部分をああしてほしい、こうしてほしいと希望通りに調整できる」という工業製品のメリットを最大限に活用し、置き竿の釣りでエサをくわえたイシダイが離さず食い込む調子に仕上げた。「イシダイがエサをくわえたときに荷が掛かりすぎても離すし、荷の掛かりが弱くても離す。イシダイが執着心を持つ荷の掛かり方がいるねん。ジワジワジワッと、何がなんでもこのエサ取ったろとイシダイが思う荷の掛かり方。

それが竿のしなり。竿のしなりで走らすねん。3本継ぎを含めてそんな調子を実現したのが石鯛キング」。 そのしなりを生かすため、石鯛キングは使用オモ リに合わせて3タイプを設定。潮の緩い山陰や徳島 方面で8〜15号の使用を想定したのがS、ある程度潮が流れる紀伊半島など10〜25号を使う場所用にM、四国西南部の急潮釣り場で35号ぐらいのオモリを使 いときに扱いやすいMH。オモリはできるだけ軽い方がイシダイの食いがよいというが木村の持論に基づいたアテイムとなっている。

"理想の実現”は始まったばかり。大手メーカーとは一線を画し、マニアのためにこだわりの竿を作っていきたいと木村。漆仕上げの「石鯛キング匠」にニューカラーを追加するほか、若い世代に訴える新シリーズなども計画中。チタ ンピトンや小物類も頭の中にはいろいろなア イデアが膨らんでいる。



  怪人伝説 TOPに戻る