イシダイ釣りの魅力とは、ずばり何でしょう?
亀井 僕らは先輩方から教えてもろた置き竿釣法を受け継いでるねんけど、竿が水面まで吸い込まれるという、目で見るダイナミックな舞い込み、これに尽きる。これがたまらんなあ。しよっちゅう釣れる魚でもないし、大の男が手が震うほど興奮させられるというのがこの魚の魅力やな。
木村 僕の場合は魚そのものが好きやから、大きくても小さくても。当たるけど、入らへんやんか竿、食わへんやん。それがバーって走るやんか。その瞬間やな。ほかの魚とイシダイはちよっと違うやんか。賢いやんか。なかなか竿が入らへんやん。潮がよくて活性が高いときは、ばーっといくけど、素バリ引いたあととかしよつちゆう人が入ってるところは入らへんやん。そんな食わへん奴をうまいこと走らして竿が舞い込む瞬間と、掛けたあとの引きもあるし、浮かせたときに大きいやつがペたんペたんってするんもたまらん。尾長グレも釣ったしシマアジも釣ったし、ヒラマサも釣ったけど、やっばりイシダイやで。気分がちゃうもん。

亀井 イシダイという魚の魅力やな。イシダイという奴の面構えや姿形がええ。
木村 銀がええし白もええし、縞もええし斑点もええ。みんなええ。なんともいえんな!

亀井 何十年ってやってるけど、未だに飽きへんなあ。大の男がそれに没頭して続けていけるいうのは、イシダイっていう魚の魅力やな。釣れてよし、釣れんでもよし、釣れんかったら今度こそはってなる。やっぱり学習能力のある魚やから。そやけどあの面構え、あれ見たら、よけいな理屈どうのこうのやないなあ。
木村 イシダイいうたら憧れやったしね。磯釣りいうたらイシダイやったもん。

亀井 底物いうたらなんか武士みたいな感じの、こうプライドがあって。そんな先輩に憧れて、かつこええな、あんなんになりたいなと思うた。
今までのイシダイ釣りで忘れられない出来事は?
亀井 僕はまあ何回もいうてるけど、見老津で初めて釣った60cmオーバーのイシダイ。生涯初めての1尾やったわけで、それは忘られへん。あとはコメツブでバラシたこと。
(※1)パラシた話はしたくないけど、あの魚だけは今でも取らせてほしいと思う。あの魚取らせてくれるんやったら、今まで釣った魚はみな帰してもええと思うぐらい思いは強い。

初めてイシダイ釣ったんは昭和42年の6月14日。
見老津(和歌山県)の中崎に上がったら人がいっばいやってね、割れ目の奥の誰もやらないところから竿出した。本命ポイントの人の竿が舞い込んで、それが58cmやってん。ばかでかあ見えたなあ。

ー所懸命釣ってたらなんか僕の竿が動いて、あれって見てたら一気に舞い込んでいった。竿を立てたものの、どないしたらえんか分からんで、顔真っ赤にして、なんせ巻いて巻いてぼかんて浮いて。
あとで「亀井さんすごいわ、ひとりで」っていわれたけど、すごいんじやないねん。肩入れてくれとか助けてくれとか声が出えへん、とにかく必死やっただけやん。
60cm、4.3kg。その1尾が始まりやった。今でも脳裏に焼き付いてる。

木村 僕はな、パラシたん全部やな。釣ったんはあんまし覚えてないけど、パラシたんは覚えてる。いちばん忘れられへんのは、7、8年前に、僕がバラシた1週間後に84cmが上がったこと。男女群島(長崎県)のラクダや。そんときは5、6尾ぽんぽんっと釣れてん50~55cmぐらいの奴が。
で、それからモゾモゾモゾモゾしよんねんけど、いっこも食い込まへんねん、何ベん振り込んでも。こら取れへんわあかんわ思うて一服してん。竿上げてコーヒー入れて。

で貝割ってポ口ポ口ポロポ口撤いとってん。それで30分から1時間とだいぶ休ませて。その間、潮は一方通行でずっと同じ方向から流れるから心配いらん。工サだけ入れとったら逃げへんから。で、仕掛け入れてん。入れたらモゾモゾびゆーってアタリや。アレッて思うたら、ビュッビュッ、ジャーって走って、ジュッジュッジュッジュッジュッで止まらんかって根に入られた。めったにそんなことないねんけど、ナマリがかんだんやと思うねん。

それで翌週行ったろうと思うてたら仕事入って行かれへんかって。そしたら別の船で初心者がラクダに上がって10何kgやったかな、84cm上げよってん。絶対おったからなそこに。群れで何尾かおったんや。それが悔しいてな。取っとったらなあ。まだ大きいのおったやろうしなあ。

(※1) 1979年8月10日にコメツブで当時の日本記録86.3cm、12kgのクチジロが上がったが、その少し前の出来事。
61、62cmを釣った直後にとんでもない大物がヒット。しかし、あと少しというところでハリが外れてしまった。

日本記録(※2)釣ったときの記憶よりもバラした記憶の方が強いんですか。
木村 それは同じ。あんときも切れたんやで一発。船が引っ張ったみたいやった。竿直線で動かへん。おんねんあんなん。3つきたんやで。取れたんは2つ。9kgと11kg。すごいやつおる。船長に聞いたら一番大きいんで14kg上がったって。自分で計ったから間違いないよって。
亀井 おると思う。80cmおるんやったら90cmの可能性はある。自分の中では90cmが天と思うてても1mおるかも知れへん。人間でも一緒やん。平均こんなけいうても、それより大きいのんがおる。

木村 ただ、ひとつ若い子はね、行ったら釣れる思うてるねん。そこへ行って食わせるにもテク二ックいるし、掛けたん取るのにもテク二ックいる。それを磨かんと、行けば釣れるんと違う。うちの店来て魚拓見て「こんなん釣りたいねん僕」っていうても、この人はこれ釣るまでに10年かかってんねんで、毎週行って。そんなん言われへんけど、この魚釣るために人生棒に振ってるかも知れへんいうんもある。そんな裏話を皆知らんやん。ぼんぽんってなんぼか釣ったら、もう釣れるて思うてんねん。

亀井 それで釣れへんかったら、やめてしまいよる。
木村 だから、そんなんやなしに一生かけて粘らんと。いつそんな大きいのがくるか分からへんから。

亀井 そうそう。最後に道糸をなあ、切るときのあのせつない気持ち。もう今日これで終わりなんやから、絶対釣れへんねんからってな。

木村 一昨年の中泊(愛媛県)の67cmなんか最後のー投やで。昼からさわっとった魚が夕方食うてん。ぐうって押さえて、こいつ入ってくれなんだら終わりや今日って思うてたら、ぶしゅーんって入ったもん。だから、最後の一投まで分からへん。それで生涯記録がくるかも知れへん。執念いうか、思い込みやな。それがそういう結果になんねん。
亀井 そやから俺、この釣りに対して若い子にいうてるのは、今始めて明日(記録ものの)チャンスがくるかも分からへんし、一生一度のチャンスかも分からへん。2回チャンスある人もおる。何十年やってもゼ口の人もおる。チャンスすらあらへんこともある釣りやけど、そのチャンスを絶対生かすためにはテク二ックを磨き、タックルもそうやし、いろんなもんに気使うてするべきやってね。

(※2) 1978年5月13日、男女群島の立神で当時のクチジロ日本記録84.5cmを釣ったこと。

近年、注目している釣り場は?
木村 八丈島(東京都)。本島周りで上がってんねんでかいの。ここね、3年くらい前から潮ようて大型口白がだいぶ出てる。ほんでようやられとるからね。切られたりとか。むこうの魚は体高ある。男女とー緒でぼてっとしてるから目方ある。八丈のは、ええイシダイやから、あっこはええなあ、行きたいなあ。
亀井 神津島でもええの出たって話聞いたけどな。神津島でも本島周りがええって。

木村 潮のいく沖磯よりも地回りがええみたいやね。大きいやつはあんなとこに多いな、けつこう。荒れてへんのかな場所が、みんなやらへんから。
亀井 屋久島でもそうやんか、一時うわーってブームになって、終わってた時代があったやん。ほんでまた、食いだしてって。種子島でもそうやんか。

木村 クチジ口は10年で7Ocmになんねんて。本イシは20年かかるけど。クチジロは10年で復活するねんって。
亀井 水温の上昇もあって成長早なってるかも知れへんし。俺がイシダイやり始めたころイシダイは60cmになるのに15年から20年かかるっていわれとった。最初に6Ocm釣ったときに「よっちゃんと同じ歳の魚や」っていわれたんで覚えてる。
生まれかわってもイシダイ師ですか。
木村 僕は前からそういうてるで。
亀井 そらそうやろ。ただ今度生まれかわるなら、木村さんみたいに回数が行ける環境に生まれたいわ。僕ら若いころ安月給で時間的にも釣りに行かれん時代が長かったから、生まれかわるんやったら、経済的にも時間的にも余裕がほしい?
釣りをやめたいって思うことは?
木村 そんなん思うたことない。若返ってもつとやりたい。もつと釣りたい。
亀井 僕いつも思うんは、頭の中はこのままで、30歳代に戻りたい。

木村 そうそう智恵はそのまま体だけ若なりたい。
亀井 ハッハッハッ。これから若い子にこの釣りを継承してもらうためにも、ちゃんとした知識を身につけてもらわなあかん。でもなによりも楽しくなけりや釣りじゃないよな。基本は楽しまな。

木村 今の人はね、頭で考える人多いからな。いろんな本とかパソコンとか見て、情報ありすぎるから。でもそれを真に受けるんやなく、現場で実際に試して納得せんとね。ほんまにええのか悪いのか自分で確かめんと。そういうふうにやってると身につく。頭だけでやってると現場に出ても使えへん。
亀井 机の上の計算では何ごともうまくいかへん。現場に出て潮を感じて、こうやねんなってのが分かると思う。

木村 家庭だけ破滅せんように、仕事とな。行ける範囲でめいっばい釣りに行く。贅沢せんとその分、釣り行って出す。ヤドカリ1個余分に買うとか。
亀井 和歌山のほうでも、「亀井さんもう80cmのクチジ口はいてへんのですか」って若い子がいうから、そんなことはないやろって。年間に竿立たなんだとかバラシたとかいう話聞くやん。その魚がすべて取れてたら中に絶対あると。

木村 僕は魚の活性によって小さい仕掛も使うけど、一緒に行った人も取れるはずやのにあまり取れてない。ということはバラしてるということ。その中にイシダイの大きいヤツおんねんやろうけど?
2008年の豊富をお願いします
木村 目分のノルマとして、70cm以上を1尾と100尾以上の釣果かな。これは毎年達成しようと頑張ってんねん。夢やなしにノルマや!

亀井 僕は木村さんにみたいにノルマはまったくない。いつもいうけど、生涯あと1尾だけ釣りたいなと。それだけ。それに小さいのが食うてきたら、それはそれで良いけど、狙いとしては記録的な1尾。それが夢やからな。それを目標に何十年とやってきたわけで、まだ達成されてへんねんから。それを追い続けていくいうのが、この釣りの醍醐味じやないかなって思うてる。まあ、足腰立たんようになるまで行きたいな。(2007年12月14日谷山商事にて)