
ここからはゼロテンション釣法の実践だ。まずはエサについて。イシダイ釣りでは様々なエサが使われるが、ゼロテンション釣法に適したエサはあるのだろうか。
「一番やりやすいのはヤドカリとカニです。潮の抵抗を受けにくいので、テンションを抜きやすいんですよ。ガンガゼ(ウニ)はちょっと大きくて潮の抵抗がかかるので、なじませ方にコツがあります。たとえば10mのタナにエサを置くなら、1mぐらい道糸にゆとりを持たせてエサを置いてから、ゆっくり糸を巻いて穂先にテンションがかかるかかからないかというところで巻くのをやめます。ヤドカリやカニならそこまでしなくても、スッと落ち着いてくれるので、余分な糸フケを取ってゼロテンションにします」
シルエットを小さくできる貝類もテンションを抜きやすいことはいうまでもない。

ヤドカリのようにシルエットが小さいエサは潮の抵抗を受けにくくゼロテンションにもっていきやすい
基本的は足元から釣っていくのが安藤さんのスタイル。それでダメなら少し投げる。ただ仕掛けを投げるほど道糸が潮を受けて引かれるのでゼロテンションにはなりにくくなる。
「まずは上のタナから探っていって、エサ取りの反応がいいところでアタリを待ちます。イシダイ釣りはタナが大事で、タナが合っていないとアタリが出ないし、アタリがあっても走らなかったりするからです。まったく穂先にアタリが出ないままエサが取られるタナに本命のイシダイがいることがよくあるんですよ。そういうところってエサをくわえたイシダイがバックできない障害物とか何かがあると思うんですよ。だから一気に1mとか極端なときは2mぐらいタナを上げるんですよ。そしたらイシダイはそのタナまで浮いてきて、エサをくわえて一気に走ることが多々ありますね。

ところが、そんなことをせずに同じタナを攻め続けて、何投かしている間にイシダイがいなくなるなんてことになってるんじゃないでしょうか。僕はカニを使っているときなんか、バンって潰されてきたときも1mぐらいタナを上げて走らせることも少なくないですよ」
仕掛けの落ち着かせ方だが、釣り座の正面で道糸が垂直に立って狙いのタナに入るよう、潮上に仕掛けを投入する。少し遠めに入れてブレーキをかけながらゆっくりと落としフォールでエサを見せてアピールするとアタリに結び付くことが多い。
「ピトンにセットする竿の角度は、穂先が水平から5度ぐらい下がるぐらい。あんまり下には向けません。大きい魚がきたときに竿が抜けてしまうし、アタリがきたときに竿と道糸がすぐに直線になってテンションがかかりゼロテンションのよさがいきない。だから水平から5度ぐらい下が穂先を支点にゼロにするゼロテンションがやりやすいですね。
穂先が少しでもお辞儀しないようにしますが、そのために大事なのがリールのハンドルなんですよ。バランサーが付いてないとハンドルノブの重みでクルッと回ってしまってテンションがかかる。バランサー付きだとそんなことがありませんからね。極端にいえばラインテンションは1cmぐらいで調整しているので、これは大事だと思います」
![]() 竿の角度は穂先が水平から5度ぐらい下を向くぐらい。ここでテンションがゼロになるよう道糸の張り加減を調整する |
![]() バランサー付きのハンドルは勝手に回ることがなく道糸のテンション調整がやりやすい |
川みたいに潮が飛んでしまうとテンションゼロは難しいが、普通に流れるくらいならぜんぜん大丈夫。そして穂先にテンションがかからないのでアタリの出方も独特だ。
「テンションをかけたときは最初にポンと穂先が動くけど、ゼロテンションのときはフワっていう感じ。10cmから20cm引かれて、それからぐって重みが伝わります。最初のフワっていうのは、イシダイがエサをくわえて違和感なくホバリングしている状態だから、テンションをかけたときとはぜんぜんアタリの出方が違う。それ以降はテンションをかけたときと一緒ですが、最初にテンションをかけないほうが明らかに魚は走ってくれます。グーグーグーッて素直に走ってくれることが多いですね」

イシダイの引き込みに合わせてテンションをかけないように送り込んでいくのが安藤スタイルだ
手持ちの場合はアタリに対してどのように送り込んでいくのだろうか。
「10引かれたら8送れとか、少しずつテンションをかけながら送り込むことが多いと思うんですけど、僕の場合はテンションをかけずに魚の動きに合わせて送り込んでいきます。活性の高い魚はテンションをかけると走りますが、警戒心の強い大きい魚ほどテンションをかけると違和感を感じて放すので、できるだけテンションをかけずにまずは竿を下げて送っていきます。
5mぐらい送り込んだら少しだけテンションをかけてやると走ることが多いですが、それで止まるようならテンションを緩めて送り込んでやる。そんなときはリールのクラッチを切ってスプールを逆転させて送るようにします。それでまた少しだけテンションをかけての繰り返しですね」

ゼロテンション釣法だからといって、ただテンションを抜けばいいわけではない。イシダイがエサを見つけてくわえた最初が肝心。そこで違和感を与えないことが走りにつながるのだから。