ゼロテンション釣法の誕生と、真価を発揮するためのタックル

九州宮崎県をホームに、近年は紀伊半島や四国西南部にも足をのばしてイシダイをがっつり仕留める安藤幸志郎さん。彼の武器は独自に編み出したゼロテンション釣法だ。その誕生とノウハウを2回に分けてお届したい。第一回は誕生の経緯とタックルへのこだわりだ。

 

穂先を支点にテンションがゼロ

 

「僕の場合、穂先を支点に釣りをやっているんですけど、穂先に道糸のテンションがかからないように釣りをすることですね。普通の人は穂先にテンションをかけて、穂先がちょっと寝るような感じでやっていますけど、僕の考えではイシダイ釣りは、イシダイが最初にエサをくわえたときが一番大事なんです。そのときに穂先にテンションがかかっていたら、大きい魚は特に警戒してパッと離すと思うんですよ。僕の場合、穂先にテンションがかかっていないので、違和感が少ないと思うんです」
 ゼロテンション釣法とはどういう釣りかをうかがうと、安藤さんはこのように答えてくれた。さらに続ける。
「イシダイがエサをくわえて最初の20cmぐらいの引っ張りが一番大事だと思うんですよ。ゼロテンションにすることで、イシダイがエサをくわえたときにテンションを加える人より20cmぐらいゆとりがある。その20cmで違和感なくイシダイが走ってくれると思うんです。そういう考えで釣りをやっています」
安藤さんも元々は普通にテンションをかける釣りだったそうだが、ある出来事でゼロテンションに目覚めた。
「置き竿で釣っているときに、なんかの加減で道糸にぜんぜんテンションがかかってなかったんですよ。道糸が遊んでいるなって見ていたら、道糸が引かれていってそのまま竿が舞い込んだんです。もしかしてと思い、その後もテンションをかけずにやってみたらどんどん釣果が上がっていった。これはテンションかけない方がいいのかなって、それから生まれた釣りですね」
2015年ごろのことだった。その後、手持ちの釣りでもテンションをかけずに釣ってみたところ、素直にイシダイが走ってくれることから、ゼロテンション釣法を確立していったのだった。


道糸のテンションが穂先にかからないように抜くゼロテンション状態がこれだ

 

大事なのは竿の調子

 

この釣りを実践するうえで、大事なのは竿の調子と安藤さん。
「置き竿の場合、竿はピトンに掛けてアタリを待つので穂先の弾力とか穂持ちから3番、4番への抜けとか総合的な調子でやりやすさと喰い込みが変わってきます。僕は赤鬼シリーズが好きで、2025年に発売された赤鬼510を愛用しています。軟らかめのチューブラー穂先がすごくいい。穂先が硬いとピトンに掛けたとき45度ぐらいに倒さなければテンションゼロにできないけれど、赤鬼510のような軟らかい穂先だと極端にいったら水平でも調整ができるんです。手持ちの場合は、少々硬くても自分でいろいろ調整できるので、竿選択肢は広がりますが、赤鬼510は5.1mと長さ的にも扱いやすくて、これ1本あれば置き竿でも手持ちでも使えていいと思います」


しなやかな穂先とスムーズに胴へと抜ける調子に仕上げられた赤鬼510。置き竿はもちろん手持ちでも喰い込み抜群。ゼロテンション釣法の強い相棒だ

 

道糸は適度に伸びるナイロン

 

 ゼロテンションを保つためには道糸の選択も重要だ。
「少しでも伸びたほうがテンションが掛かりにくいですね。硬い道糸は潮の流れを受けたときに穂先にテンションがかかりやすいしイシダイがエサを触ったときに弾きやすいし。竿が舞い込んでいってあと一息ってときにポンッと外しちゃうこともありますからね。だからPEラインは絶対使わない。シーズンを通して軟らかめのナイロンの22号です。20号だと大きな魚がきたときにちょっと怖いし、24号だと水切れが悪くて潮の抵抗を受けるので、ゼロテンションにするには22号が扱いやすいですね」


道糸はしなやかで幾分伸びがあるナイロン22号がお気に入り

 

なじみがいい真空仕掛け

 

 瀬ズレワイヤは7本撚りのストロングワイヤー石鯛36番を2.3m。元々は標準的な長さの1.5mだったが、瀬ズレの上から道糸を何度も切られたことから少しずつ伸ばしていって、2.3mに落ち着いたそうだ。
そんな瀬ズレワイヤに組み合わせるのは真空オモリの仕掛けがメイン。
「真空仕掛けだと全体が直線状なのでトラブルがないし、磯壁のタナを狙うときにもなじみがいい。ただ、根掛かりが多い場所や海藻があるときなんかは捨てオモリ式のテンビン仕掛けを使ったりもします。そのあたりはこだわりすぎず臨機に対応したほうが釣果に結びつくと思います」
 そしてオモリは15号を基本に、潮が速いときは25号、緩いときは8号まで軽くする。できるだけ軽いオモリを使うことでエサをゆっくりフォールさせてイシダイにアピールしたいからだ。


ストロングワイヤー36番にTsuriMushaフラットシンカーを通した真空仕掛け。絡みなどのトラブルがなくタナになじませやすいのが大きな特徴

 

ザイロンは異次元の喰い込み

 

 イシダイを喰わせるうえで、安藤さんがゼロテンションとともにこだわるのがザイロンハリス。
喰わせワイヤー38番の先にザイロン25号を8cm付けたものだ。
「チモトにザイロンを使うことで喰い込みがいいですね。あまりに吸い込みがよすぎてエラに掛かったことが何回もありますよ。釣り上げたときにハリはカンヌキに掛かっているけど、エラからめちゃくちゃ血が出ていることもある。最初にエラまでいったハリがアワせたときにエラをキズ付けて、カンヌキまで出てきて掛かっているんだと思います。それくらい喰い込みがいいんですよ。ザイロンは」
 ワイヤーオンリーにときのように、イシダイや歯の強い魚に噛まれてもチモトがキンクしないのもザイロンのメリットだ。
「ハリスの長さもいろいろ試したんですよ。25cmや40cmにしたり。ザイロンの長さも10cmとか15cmとか試した結果、ザイロンを8cmにして全長33cmというのが一番しっくりきましたね。ザイロンが8cmだとガンガゼを2個付けしたときにザイロンの中に収まるんですよ。ワイヤーとの境目のボッチでガンガゼが止まるので輪ゴムで縛ったり、ストッパーを付ける必要もありません」


ハリ上の黒い部分がザイロン。現代の有機繊維の中では最高レベルの強度を誇りかつしなやか。喰い込みがよいうえイシダイの歯では切られることがない

 

ハリを落とすときは一気に小さく

 

ハリは1年を通して16号が基本だが、口の小さなイシガキダイを狙いにいくとき12号に落とすこともある。
「16号から15号みたいに1号落としたぐらいではそんなに喰いは変わらないですよ。一気に12号まで落としたほうが喰い込みます。今日はイシガキだけでも釣って帰ろうってときには、そんなこともやりますね」
 基本的には大型のイシダイを狙っているが、イシダイの気配がないときやイシガキダイがわいたときはイシガキダイを狙う。自然体で楽しむのが安藤さんのスタイルだ。
 次回は仕掛けの落ち着かせ方やアタリを待つときの竿のセッティングなど、釣り方のノウハウを紹介したい。


引きが強くて食べておいしいイシガキダイ。アタリが大きく派手で強烈に竿を舞い込ませてくれるから面白い